第3部 江戸時代中期の部/その6、上杉鷹山 財政再建に成功

その時、名古屋商人は

この頃創業した会社・備前屋

森本本店 森本敏郎会長八代目社長、中野敏雄氏。明治時代の備前屋の
店舗の写真とともに

「あわ雪」で知られる三河の菓子舗・備前屋は、天明2年(1782)に初代が岡崎宿伝馬町に菓子屋を始めたのが始まり。以来、この地で菓子舗を営み、社長の中野敏雄氏で八代目となる。店主は代々「藤右衛門」と名乗ってきた。

 中野氏は歴史好きで、特にお菓子のこととなると話が止まらない。大事そうに手に取り出して見せてくれたのは、江戸時代に発刊された「お菓子の作り方」を説く本。絵入りで分かりやすい内容で、天保年間に出されたもの。「これを見ると、案外お菓子の作り方は同じなのです」と感心する。

 銘菓「あわ雪」は、全国的に名前を知られているが、その由来は岡崎名物だった「あわ雪茶屋」の「あわ雪豆腐」が無くなるのを惜しんだ当舗の三代目・藤右衛門が明治の初めの頃に創作したもの。その「あわ雪豆腐」とはあんかけ豆腐で、旅人が一服しながら食べるといった、今でいうファーストフードであったという。

 ところで気になるのは、備前屋という屋号だ。岡崎なのになぜ備前屋なの? 先祖は岡山出身? と聞きたくなるもの。中野氏は、じっくり時間をかけて解説してくれた。

 「備前屋という屋号から連想されるごく当たり前の質問だと思うが、いくらルーツを調べても岡山と関係ある事柄は出てこない。何か岡崎に備前という文字で関係ある事柄はないだろうかと調べていくうちに、岡崎城の外囲いの建物に『備前郭(曲輪)』という名称がついているのを知った。この『備前郭』は『伊那備前守忠次』という方の名前を顕彰してつけたものだと思う。

 家康公が関東八カ国へ移封された後、豊臣秀吉の意を奉じた田中吉政(豊臣秀次家老)は、岡崎における家康公の足跡を消すため、苛斂誅求とも言える施策を行った。

 伊那備前守は慶長5年(1600)、田中吉政が九州の柳川に転封された後、家康の命を受け派遣された代官である。伊那備前守は、田中吉政によって取り上げられた旧領を安堵するなど、人心を安定させた。領民にとっては、正に「地獄で仏」とも思われた訳で、『備前郭』の呼び名もその表われと見ることができる。この『備前郭』は岡崎城のほかの城郭『浄瑠璃郭』『菅生郭』『稗田郭』などとともに明治6年(1873)の城取り壊し令により壊されるまで存在した」

 中野氏が見せてくれたのは、明治末期に店舗を改装したときの記念写真。真ん中でカンカン帽を被っている若い人が六代目勝次郎で、社長の祖父にあたる。残念ながら、戦争では岡崎も焼け、備前屋も全焼した。昔を偲ぶ貴重な一枚である。

 戦後は物資不足で営業休止に追い込まれた時期もあったが、不屈の精神で乗り切った。そして、飛躍の元となったのは、テレビCMだった。例の「びぜんやーの あわゆき」という口調の、あのCMである。お陰で知名度はグッと上がった。人気商品には「あわ雪」のほか、「手風琴のしらべ」もある。この「手風琴」は「てふうきん」と読み、小型のアコーディオンのこと。何とも洒落たネーミングだ。

「これだけ長く続いてきた秘訣は?」という問いに対しては、やや考えつつ「続けようと思って続けたとは思わない。菓子作りが好きで続けてきた。その結果ではないかと思う」と分析する。

「後継者に望むことは?」という問いに対しては「愚直さです」と即答。「菓子舗は経営者といえども自ら商品を作ることができないといけない」「ほかのことをやってほしくない。コツコツと家業に励んでほしい。自分の分を知ることも必要」などと期待を込める。後継者は子供の予定。

 合名会社備前屋。本店は岡崎市伝馬通2‐17。

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