第2部 江戸時代初期の部/その2、三井越後屋が現銀掛け値なしの商法で大成功

その時、名古屋商人は

この頃に創業した会社・ソニーの盛田氏の実家でもあった「ねのひの盛田」

父盛田昭夫氏の銅像の横に立つ英夫氏父盛田昭夫氏の銅像の横に立つ英夫氏

 盛田家といえば、ソニーの創業者・故盛田昭夫氏の実家である。この盛田家の歴史は古い。寛文5年(1665)に清酒の醸造を開始したのが始まり。寛文5年といえば、将軍は家綱であり、尾張藩では二代藩主光友の治世だった。

 創業者は、盛田久左衛門といった。創業の地は、知多半島の中央部にある小鈴谷村(現・常滑市小鈴谷)である。伊勢湾に面した小鈴谷村は、気候温暖で冬は寒風が吹き付けて、酒造りに適した土地柄だった。酒造りは良質な水が必要だが、この付近はそれもあった。

 江戸時代は、酒と煙草は欠かせない嗜好品だった。中でも江戸は、なにかにつけて酒が出され、年中行事とか冠婚葬祭などで盛んに飲まれた。江戸時代の酒は、灘が主要な産地だった。灘から江戸まで船で運び込まれていた。この長い海路は難所で知られる潮岬があり、海が荒れて航行できない日も多く、樽酒を満載して遭難する船も少なくなかった。それに比べて知多半島は、距離的に有利だった。

 江戸時代の後期、十一代目で命祺という経営者が現れた。酒の品質改良に力を注ぎ、天保末年に自信作を世に出した。その時の銘柄が「子の日松」である。この酒に対する評価は高く、灘の酒と肩を並べるまでになった。このように命祺は、盛田家が有力な酒蔵に発展する基礎を築いた。

 十一代命祺は、酒の売上を伸ばす一方で、事業の多角化にも乗り出した。千石船を三隻購入し、御前崎、清水、下田に寄港する江戸航路を拓いた。帰り船には江戸で買い入れた干鰯、〆粕を乗せ、碧南や西尾に肥料として販売した。半田の酢、自社の「子の日松」の清酒、味噌、溜を江戸に売り、売上を伸ばした。明治元年(1868)には、醤油の醸造を始めた。盛田家は、明治時代以降も時代の変化に対応しながら、中部地区の有力な食品会社として発展を続けた。

 昭和20年(1945)の終戦後、盛田家の名を高めたのは誰もが知っている盛田昭夫氏だ。昭夫氏は十五代目にあたる。昭夫氏は海軍の技術将校となっていたが、敗戦を迎えた。昭和21年、昭夫氏は戦時中に知り合った井深大氏と再会を果たし、東京通信工業(後のソニー)を興した。昭夫氏の父は、長兄の昭夫氏が盛田家十五代当主を継ぐべく期待を持って育てたが、井深大氏との新会社の説明を聞き「昭夫がやりたいというのなら、それも良いだろう。しっかりおやりなさい」と承知した。昭夫氏の夢を理解して、精神的な支援だけでなく、名古屋の土地を売り19万円という大金を差し出し、経済的な支援も行った。ここに東京通信工業がスタートした。

 それから60年以上経た平成22年(2010)、盛田株式会社は、昭夫氏の長男である英夫氏が会長を務めている。英夫氏はジャパン・フード&リカー・アライアンス株式会社(本社・香川県、大証2部上場)の会長も兼務している。同社は、清酒、味噌、溜、醤油、つゆ、たれ、みりん風調味料、その他調味料の製造を行っており、食品業界で指折りの存在だ。

 英夫氏は、周囲から「昭夫氏にソックリ」といわれるほど父に似ているという。その英夫氏に家業が続いた理由を聞いてみた。それに対して英夫氏は、主に2つの理由があると答えた。「第1は、昔は相続税が低かったこと」。「第2は、長男が家督を継ぐということが当たり前のこととして行われてきたこと」だという。盛田家は、代々長男が継いでいる。

 英夫氏は、家業に戻る前にはCBSソニーで、音楽プロデューサーとして多くのアーティストを世に出した。ノーランズとか、フリオ・イグレシアスなどの名前を懐かしく思い出す人も多いだろうが、彼らを日本で売り出してヒットさせたのが英夫氏である。ヒット商品を生み出す秘訣を聞くと「必ずヒットするという思い入れの強さが必要」と答えてくれた。

 盛田株式会社の本社は、名古屋市中区栄1‐7‐34。

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